性感染症(エイズを含む)について
財団法人 性の健康医学財団 理事長 松田 静治氏
財団法人 性の健康医学財団の前身は1921年に設立された日本性病予防協会で、初代総裁は満鉄総裁、外務大臣、東京市長などを務めた後藤新平伯爵でした。さらに明治36年に設立された日本花柳病予防協会までさかのぼると、今年で104年になります。
日本では1999年に性病予防法がなくなったことで、法律的には「性病」という言葉がなくなりました。現在は「性感染症(STD)」という言葉が使われていまして、ここには約20の病気が含まれています。昔は性行為と言えば異性間で起こる性器のドッキングだけを意味していましたが、今はオーラルセックスや肛門性交等さまざまな形があるため、性器以外の場所、例えば咽頭に淋菌やクラミジアが見つかる場合も結構あります。また、最近の特徴として、若年層の女性患者が多いことが挙げられます。
男性と女性は解剖学的に見て違いがありますから、性感染症に含まれるものの種類が違います。男性の場合、精液を出すところとおしっこを出すところが同じなので、尿道炎が性感染症に属します。一方、女性は尿道と膣の入り口が別になっており、また尿道が5cm未満と非常に短いため、膀胱炎になりやすいという特徴はありますが、膀胱炎は性感染症ではないので、女性の性感染症は腟炎か子宮の入口の子宮頸管炎が主です。また、梅毒の患者は最近は非常に少なくなりましたが、入院するときや妊婦さんに対しては今でも梅毒の血液検査をしています。
現在最も多いのは、男性が淋菌感染で女性はクラミジア・トラコマチス感染(以下クラミジアと略)です。淋菌にやられると排尿時に痛みを感じたり膿が出たりするので男性では診断は割に容易ですが、クラミジアの場合は症状が軽いため、分かりにくいという特徴があり、女性では特に症状や所見が軽いのです。今はどちらもとてもよく効く薬ができているのですが、放っておくと大変です。女性では特にクラミジアは卵管のほうまでいって腹痛や発熱、さらには不妊症を引き起こす可能性もあります。
では性交渉をしなければ安全かというと、そんなことはありません。実は、淋菌性尿道炎の20~30%は咽頭から感染したものなのです。風俗店で働いている女性の20%は咽頭に淋菌やクラミジアを持っているといわれ、性器よりの感染を含めて感染源となるのです。この他の性感染症ではウイルスによる病気にも注意する必要があり、その代表が性器ヘルペス(水泡や潰瘍を生ずる)や性器にいぼがみられる尖圭コンジローマです。皆さんは驚かれるかもしれませんが、毛じらみも性感染症の一種です。毛じらみは性行為をする・しないにかかわりなく、男女が下着を脱いで接触するだけで陰毛から陰毛にうつるため、最近はこれが増えてきています。
さて、現在、世界には4500万人を超えるHIV感染者(エイズ患者を含む)がいて、その数は1年で500万人増えていると言われています。そんな中で、今いちばん怖いのが、30億の人口を抱えているアジアです。中国では各省からの統計が未だに終わっていないのですが、100万人は超しているのではないかと言われています。
日本では85年にHIV感染者が発見されて以来、毎年約1000人ずつ感染者数が増えており、現在は1万人を超えています。現在若者に多いSTDの増加の背景として初交年齢の若年化があり、最近の調査によると高校生3年生の4割、大学卒業時には8割が初交を済ませているそうです。セックスパートナーの増加、援助交際、同性愛等、性行為が多様化している中で、高校生の85%が「なるべく早く性教育をしてもらいたい」と言っているのに対して、困ったことに、高校生の保護者で性教育の必要性を感じている方は約2/3程度です。保護者の世代では19歳までにセックスをした人は10%程度ですから、その辺りのギャップが意識の差に現れているのだと思います。
しかし、性感染症になった人はそうではない人と比べて数倍エイズになりやすいということは紛れもない事実ですから、我々は男女の性やSTDに対する理解を高めてもらうために、さまざまな活動を行っています。皆様の場合はめったなことはないと思いますが、万が一異常を感じられたときには、なるべく早く受診されることをお勧めします。
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