「国際的なオペラ事情の変化」
5月21日卓話要旨
会員 早川 正一君
昨年から、米国発の金融危機が世界中を駆けめぐり、不景気な世の中になってしまいました。国際的に経済の国境がなくなってしまい、ITを始めとする科学技術の進歩が世界的に著しく、私たちの普段の生活もいつの間にか大きく変化して来ていますので、エンターテイメント・ビジネスも世界中で大きく変わってきています。
私の処では、毎日オペラを上演しておりますが、オペラにも流行があり、変化しておりますので、年に数回海外のオペラを視察して来ていますので、その一端をお話しします。
NYでは、メトロポリタン・オペラ(MET)の総支配人が3年前からソニークラシカの社長だったピーター・ゲルプ(55)が就任し、大改革をしました。彼が就任の5年前に観客の平均年齢を調べたら、60才で、その5年後は65才で、大変な危機を感じ、オペラが一部の特権階級のもののように社会の中で孤立であってはならないと感じ、観客の若い層へのアピールを企画しました。高い席を値上げし、安い席を大幅に値下げして、その他にオペラ上演をタイムズ・スケアなど数カ所の野外の大スクリーンで、無料公開などをしています。
また、それだけでなく、世界中、700カ所の文化ホールや映画館に、ハイビジョンの光ファイバーで、METの公演を安く放映しています。その所為で、若年層のオペラファンが増えてきて、4000席のMETの公演が、半年以上前から完売するようになりました。尤も、METのチケットはキャンセルが効きませんが、チケットを返品すると、その額面分の所得税の税額控除の証明書が送られてきます。METでは、そのチケットを他に販売できるので、METの文化芸術に寄付したことになるからです。
お手元に、今年3月15日のMET125周年オペラガラのことを書きましたが、そのチケット代が$125,000から、最低が$1,883です。(日本円で1,200万円から18万円)尤も、その内の91%が、文化芸術に寄付したことになり、自分の所得税から控除されますから、本人の実質負担は、僅か9%で済みます。米国発の不景気にも拘わらず、米国では文化芸術には関心が深いのです。
英国のロイヤルオペラハウスも、METに習って、街角の野外のスクリーンでオペラを無料公開したり、ヨーロッパ中で、METのようにハイビジョンの光ファイバーで、放映しています。最近の映画館は、音響も素晴らしく、映画になると、本舞台よりアップの映像が観れて、若い層にも大変好評です。初めて接したオペラに彼らは感激して、本舞台にも興味を持つようになって来るのです。ソニーが昨年から、この一部を日本各地の映画館で放映していますから、METのライブと同様に観ることが出来ます。
ドイツでも、音楽芸術の質の向上だけを誇るのではなく、劇場に来れない方々にも提供しようと、インターネットで全世界に放映することを今年から始めました。
私は、日本でも文化芸術に対するこの傾向を取り入れるよう、文化庁や新国立劇場を始め、民間のオペラ団体等にも、訴えているのですが、なかなか腰を上げてくれません。と言うのも、国からの補助金に頼っている日本の税制が災いしているのです。欧米のように、一般市民からの免税寄付で文化を支えるようにしなければ、国際的でありません。日本では米国の市民の寄付の1%にも満たない状況ですし、フランスでは市民の30%が文化芸術に寄付をしているのです。英国では、市民からの寄付の30%しか補助金が出ないので、寄付の集まらない公益法人は有益性が無いから、補助金はなしです。
「世界の常識は、日本の非常識」で、世界中がこのように、伝統文化芸術の普及に力を入れているのに、日本では無関心のようで、歯がゆくてなりません。
昨年から、ふるさと納税制度ができ、住民税の10%まで自分の好む処に寄付すると、税金からその分控除されますので、文化芸術基本条例を施行している千代田区に寄付するような運動を開始しています。
欧米では常識の税制が、初めて日本にも出来たのですから、大いに活用したいものです。
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