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2010年4月15日 (木)

「お茶炭のはなし」

3月18日卓話要旨
東京燃料林産株式会社常務取締役 廣瀬 直之氏
(廣瀬 元夫会員紹介)

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 お茶は臨済宗の開祖、栄西禅師によって日本にもたらされ、当初は薬代わりに使われていたのが、室町時代初期の闘茶を経て、村田珠光、武野紹鴎、千利休、古田織部、小堀遠州などにより、江戸中期ぐらいまでに茶の湯として発展してきました。
 それに伴い、各地で茶の湯のための炭(湯炭)を焼くようになったのですが、茶の湯の炭は普通より細くて、切り口が真円に近いものが使われ、皮は薄からず厚からず、断面は割れ目が放射状に均等で細かく入っている「菊割れ」がいいとされます。真っすぐで節や割れ目がないことも重要です。さらに、年輪が均等に入って、炭にしたときに形がおかしくならないものがいいとされることから、日光が均等に当たって、寒暖の差が小さい場所に成育したクヌギの木が多く使われます。また、土壌も肥沃すぎると、成長が早くて、柔らかい炭になるといいます。このような条件を満たす炭として、昔から大阪の「池田炭」、千葉の「佐倉炭」などが有名です。
 炭を作る工程には、①窯への炭材詰め、②口火焚き(炭材の乾燥)、③炭材への着火(炭化)、④精煉、⑤消火、⑥窯出しがあります。①では丸太を3~4尺にカットし、太いものは機械で窯に入る形に成形して、珪藻土などで作った窯にぎっしり並べていきます。そして、要らない枝や小さな木を窯の手前の方に置いて火をつけるのが②の口火焚きです。この工程に2日ぐらいかけるのですが、煙がだんだん黄色みを帯びてきて、完全に黄色くなってきたときが木が炭に変わる瞬間です。そのときに、窯の口を狭めて、酸素不足の状態で蒸し焼きにするのが③の工程です。そして、3~5日その炭化の様子を見守り続けると、やがて煙が青みを帯びてきますので、少しずつ窯の口を開けて、炭材に含まれている揮発分やガスを逃がし、炭を締めていく工程が④の精錬です。ちなみに、この過程で皮がはがれやすいので、売れる商品にするためには高度の技術が必要となります。備長炭はこの段階で窯の口をさらに開けて掻き出すのですが、お茶炭の場合は、さらに2~3日ぐらい精錬作業を行った後に窯の口を閉めます。完全に火が消えるまでは3~5日かかりますので、全工程を合わせると2週間ぐらいはかかるということです。
 また、茶の湯に炭を使う前には、手が汚れたり、火の粉が飛び散ることを防ぐために、水洗いをします。その後、天日干しを何日かして完全に乾かしてから使用するのです。このように備長炭以上に手間暇がかかるということで、お茶炭のキログラム当たりの単価は、備長炭の倍近くもします。
 少人数が小さな座敷で催すお茶事だと、炭が身近で拝見できますので、このように丹精込めて作られた炭の暖かさや火の美しさ、ほのかな炭のにおいなどを楽しむことができます。夕方のお茶事に呼ばれた場合などは、薄暗い露地を歩いていくと、最初に煙草盆が置いてありますが、煙草盆の火には、「火入れの炭」と言う1~2cmぐらいの非常に細い炭を使います。ほの暗い中に小さい明かりがともって、とても美しいです。
 茶室に入って最初に行うのが、「初炭」と言われる炭点前(すみてまえ)です。お部屋に入ると、まず炭斗(すみとり)の道具を拝見して、その美しさをめでた後、亭主が炉の中に小さいものから並べた炭に順に火が移っていく様子を楽しむのです。そして、食事、濃茶、道具の拝見が終わり中立の後、「後炭」と言って少し暖を取ったり、薄茶をたてるために炭を継ぎ足す作業が最後にあるわけです。
 昨今、環境問題が話題に上ることが多くなっていますが、クヌギなどの広葉樹は針葉樹と違い、切り株の周りから「ひこばえ」と呼ばれる新芽が生えてきます。もちろん100~200年たったクヌギを切ってもその生命力には限界がありますが、30年前後の木は間引いて、新しい木に変えていくことによって、二酸化炭素の吸収力や養分や水をためる力を高めることができます。ただ、今の日本では林業はもうからないことから、林業に従事する者が減少し、放置されている林が増えている状態です。
 しかし、山を丸裸にするのではなく、古い木だけを選んで切っていく択伐をやることで、根っこや腐葉土が多くなり、山に水がたまって浄化され、「緑のダム」と言われる森ができていきます。そうなれば、川の水量や栄養も豊富になりますので、農業や沿岸漁業にも良い循環をもたらすはずです。それに私たちの炭の仕事が少しでも役に立てればと考えているところです。

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