「超安全小型原子炉」
4月14日例会卓話要旨
元電力中央研究所理事 服部 禎男氏
(小川 景士会員紹介)
日本はこれまで莫大なお金を掛けて大型原子炉の開発を進めてきましたが、これからは小型原子炉の時代が来るのではないかと考えています。
約50年前、私は東京工業大学で原子炉物理学の研究をしていたときに、直径1m以下の細い炉心では温度が上昇すると周囲に漏れ出す中性子が多くなって、自ら臨界状態を続けられなくなることを偶然発見しました。つまり超小型の炉心にすれば、本質的に安全であることが分かったのです。
その後、1986年にチェルノブイリ事故が起きたとき、私はある方から、絶対に事故の起きない原子炉を研究するように言われました。このとき私は、事故が起きると自然に止まってしまう超安全な小型原子炉を研究しようと密かに決意したのです。
実はその半年ほど前に、シカゴ大学アルゴンヌ国立研究所の研究者から、素晴らしい燃料の話を聞いていました。現在は世界的にセラミックの燃料ペレットを使っていますが、高温の蒸気を作るために燃料中心部の温度が2500℃ほどになります。しかし、ウランにジルコニウムを10%混ぜた金属燃料を使うと、熱伝導率がいいことから、フルパワーでも800℃近くで運転できるのです。さらにセラミックと違って鉛のように軟らかく、破損しにくい上に、万が一事故が起きて炉内の温度が上がっていっても燃料は泡になってしまうという特性を持っています。
また、原子炉の運転において、一番慎重にならなければならないのは制御棒の取り扱いです。運転員は100本もある制御棒を計器を見ながら命懸けで微調整しており、毎回非常に大きなストレスがかかっています。さらにその駆動にも非常にたくさんのお金が掛かっていることを知って、私はこの制御棒を何とか無くせないものかと考えました。そして仲間と協力し、細身の炉心で先ほどの金属燃料を使えば、制御棒無しで出力調整ができることを突き止めたのです。それが20年ほど前のことです。そこから私は、運転員無し、中央制御室無しの原子炉を夢見て、専門家達に徹底的に設計計算をして頂きました。
ただし、私の考えた細くて長い炉心の場合、中性子が炉心の表面から漏れて出ていくために、なかなか臨
界状態にならないのです。もちろん濃縮度を上げれば別ですが、安定に運転するために中性子を反射するグラファイト(黒鉛)の粒をスチールリングに入れた幅約40cmの環状反射体を付けることにしました。それによって中性子の洩れが抑えられるので臨界状態になって、エネルギーが発生するわけです。
もう一つは燃料交換の問題です。そこで、私は先ほどの反射体を30年で1m半移動させることで、燃料交換を不要にできないかと考えました。その移動は1週間に直すと1mmと、バクテリアの這う速度と同等です。ですから駆動機構が大変だったのですが、現在ではそれも技術を結集して十分作れるようになっています。
世界では今、海水脱塩をして飲料水を確保していますが、そのためにもエネルギーが必要です。それをオイルではなく、原子力で賄えないかという話が進んでいる一方で、最も水を欲しがっているアフリカや中近東の国々の中には後進国も多く、原子力技術者がいるとは限りません。燃料棒の交換が不要で、原子炉の運転員も不要なこの小型原子炉は、国際原子力機関(IAEA)やアメリカのエネルギー省にも注目されていて、世界の水や電気の必要な国々から大きな期待が寄せられています。
さて、原子炉を運転していく中で生じるプルトニウムは非常に恐ろしいものだとされている一方で、無限のエネルギー源にもなります。自然界のウランの99%以上が核分裂をしにくいウラン238で、残りの0.7%が核分裂しやすいウラン235です。ウラン238は温度が上がると中性子を吸収するという特性を持っており、ウラン238が中性子を捕獲してウラン239になると数時間後にプルトニウム239になります。実はウラン238をプルトニウムにどんどん変えて安全に管理利用する技術が確立されれば、世界のエネルギー構造が大きく変わると言われています。
ちなみに原子炉の燃料にはウラン238が豊富に混入されていますから、前述のように温度が上がると中性子を吸収するので爆発には至りません。このウラン238を取り除いてウラン235ばかりにしたのが原子爆弾です。従って福島原子力発電所では核爆発は絶対に起きません。懸念されている方もいるようですが、ご安心ください。
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