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2016年10月 7日 (金)

「口腔ケアを見直しましょう」

9月8日卓話要旨
黒田 昌彦 会員
(黒田歯科医院 院長)
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   歯周病が多くの病気と関係していることは最近メディアでもよく取り上げられていますが、糖尿病を治療する内科の先生は、「歯磨きをしなければ糖尿病は治らない」と言っています。歯周病があると糖尿病は治らないし、糖尿病があると歯周病は治らないということです。心臓疾患や循環器疾患、脳梗塞なども歯周病や虫歯と関連しています。また、寝たきりになったときなどに、食べ物が誤って肺に入り炎症を起こすと、誤嚥性肺炎が起こります。がん、循環器疾患、肺炎は日本人に多い死因のベスト3であり、その全てが歯周病と関連しています。
 歯周病が怖いのは、歯周病菌が血液に乗って全身を回るからです。当然心臓にも入っていきます。歯周病を侮っていると、糖尿病によって失明や足の切断につながったり、心臓疾患によっていろいろな循環障害や半身不随、脳内出血などを起こしたりして、命取りになります。歯周病は自覚症状がほとんどありませんが、成人の6割、50歳以上では8割以上が罹患しています。50歳を過ぎて歯を抜かれるのは、歯周病が原因だと考えた方がいいでしょう。
 次に関連性が深いのは、認知症です。歯が20本以上残っていると認知症になりにくいといわれています。歯が残っていなくて入れ歯も使わない人は、認知症の発症が早くなり、末期症状になってしまいます。
 歯のエナメル質は体の中で一番硬く、無機質なので、虫歯菌にやられにくい部分ですが、歯根は虫歯になりやすい部分です。歯周炎を起こして歯槽膿漏になると、歯肉が下がって歯根が露出します。エナメル質はガードしてくれますが、歯根は虫歯の進行が早いので、油断するとすぐに多発性の虫歯になってしまいます。歯と歯肉の境目が虫歯になると、もともと細いところが折れやすくなり、神経が炎症を起こして死んでしまい、歯が折れたり割れたりします。治療でかぶせた金属やセラミックは二度と虫歯になりませんが、安心していると根の方が露出して、虫歯になってしまいます。
 歯は、食事のたびに溶けて回復します。歯が溶けることを脱灰といい、回復することを再石灰化といいます。人間の歯は、常に脱灰と再石灰化を繰り返します。回復するには2~6時間かかるのですが、何度も間食をしたり、だらだら食べていたりすると、再石灰化が起きにくくなってしまいます。だから、間食は危険です。いったん溶けて回復するには唾液が必要ですが、唾液の分泌は50歳を境目に減り、60~70代になるとさらに減ります。
 唾液の緩衝作用が衰えてくると、フッ素を使うことが必要になります。歯根の虫歯を予防するために、研究者たちは「ルートケア」という歯磨き剤を開発しました。従来と変わった点はフッ素が入っていることです。ヨーロッパなどのほとんどの先進国では、フッ素入りの歯磨き剤がずっと使われ、水道水にフッ素が入っている国もあります。日本歯科医師会でもフッ素導入を40年ほどずっと要望していて、5~6年前にようやく許可されました。「ルートケア」を使って歯磨きした後は、うがいはしないでください。フッ素を長く歯にとどめることが齲蝕(うしょく)予防の根本です。昔ながらの歯磨き剤を使って口中を泡だらけにしてうがいをするのは古い考えですので、やめてください。
 昔は歯垢のことをプラークと呼びましたが、今はバイオフィルムと呼んでいます。虫歯も歯周病もバイオフィルムが原因ですが、食べかすは時間が経つとバイオフィルムになっていきます。患者さんが歯磨きで取れるのは歯肉から上の部分であり、下の部分は歯科医院でないと取れません。歯ブラシで頑張っても30~40%しか取れず、6~7割は残ってしまいます。この10年ほどで随分多くの電動歯ブラシや音波歯ブラシが発売されるようになりました。音波歯ブラシは、歯間や歯肉の付け根の部分をかなりよく磨けます。バイオフィルムは歯科医院に行くと、専門の清掃用具できれいにしてくれて、フッ素も塗ってくれます。
 歯周炎になると、歯が長くなった感じになり、隙間が空いてきます。ひどくなると歯石が表面にべったり付きます。歯周病になると歯が抜けてきて、歯がなくなってしまうと上下とも総入れ歯になってしまいます。そうならないためには、歯周病を予防してできるだけ歯を抜かず、安易にインプラントに頼らずに一本でも多く自分の歯を残していただきたいと思います。

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2016年10月 3日 (月)

「ドイツの強さはどこから来るか」

9月1日卓話要旨
東海大学 名誉教授 前島 巖 氏
(小河原 章博会員紹介)

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    最近ドイツがいろいろな機会にまた注目されるようになりました。ギリシャの財政危機、難民受け入れ問題、英国のEU脱退問題、また福島の原発事故の際には、いち早く脱原発を決定して注目されるなど、ドイツの政治のあり方やその影響力の強まりが注目されるようになりました。フランスの人類学者エマニュエル・トッド氏は、ドイツの影響力はEUを超えてヨーロッパ全体に広まっており、影響力の範囲は人口およびGDPでアメリカを凌駕しつつあると言っています。 
ドイツはEUの東方拡大によって明らかに影響力を拡大させました。もともとドイツは、ドイツ神聖ローマ帝国やハンザ同盟の歴史を通じて、その影響力はヨーロッパの広範囲におよんでいました。ドイツが近代国家として統一したのは1871年ですが、ベルリンを中心としたプロイセン王国主導のいわゆる小ドイツ主義の統一でした。第2次大戦後ドイツは東西に分割され、東ドイツの東側、つまりオーデル河・ナイセ河の東側、戦前シュレジア地方と呼ばれた地域は現在のポーランド国土の西半分となり、また東プロイセンと言われた地域は2分されて半分はポーランド領となり、他の半分はソ連領の飛び地カリーニングラードとなりました。1990年に東西ドイツは再統一されましたが、領土は昔に比べてだいぶ小さくなりました。けれどもEUの東方拡大によってドイツの歴史的な影響力は再びヨーロッパ全域に拡大しました。一時は200くらいの都市が加盟していた中世の商業的な都市同盟であるハンザ同盟や、ドイツ神聖ローマ帝国時代の古いつながりによるドイツの影響力が再び広がろうとしています。これがドイツの「強さ」の源泉の1点目です。
2点目は、第2次大戦後のドイツは「社会的国家」であるという点です。ドイツの憲法「基本法」は、「ドイツ連邦共和国は社会的国家である」と定めています。「社会的国家」の柱としては、「社会的市場経済」、「共同決定制度」、反インフレ・消費者保護、環境保護、広範な福祉政策などを挙げることができます。第2次大戦後のドイツは、アングロサクソン的自由市場経済ではなく、市場経済と社会的正義を結びつける「社会的市場経済体制」の国家として、アデナウアー首相、エアハルト経財相(後首相)の下で「経済奇跡」を実現しました。東西ドイツの独立後間もない1951年には「石炭鉄鋼共同決定法」を制定し、翌年には「経営組織法」、1955年には「職員代表法」、1976年には、「共同決定法」を制定して、企業における労使の共同決定制度を確立しています。すべての大企業(従業員2000名以上)では、監査役会の半数が労働者側代表で構成され、そして監査役会は取締役を任免できることになっています。また従業員5名以上のすべての事業所には「従業員代表委員会」を設けなくてはならないことになっています。経営における共同決定だけでなく、反インフレ・消費者保護、環境保護、介護福祉を含む、広範な社会保障・福祉政策は社会的国家の柱とされています。インフレは貧しい者を苦しめ、貧富の差を拡大させるというのがドイツの考え方です。原発をやめたのも環境保護の考え方からです。
 3点目は、ドイツの国民性が原理に忠実であるという点です。世界史を変えるような思想の多くはドイツから生まれています。宗教改革は、マルティン・ルターであり、共産主義はカール・マルクスです。誤った「原理」に忠実になると、第3帝国のヒトラーのようなことになります。間違えると災いを起こす可能性もあるということです。
 4点目は、ものづくりの強さです。ドイツ語の職業(ベルーフ)には神から与えられた仕事という意味があります。同業組合ツンフトやギルドの伝統の上に、よく知られたマイスター制度がありますが、その伝統の上にドイツではいわゆる二元的職業教育制度が行なわれています。二元的とは実務と理論の両方を学ぶという意味ですが、大学進学者を除く同世代の約7割の人が何らかの職業教育を受けて国家的な資格を得ます。日本にも企業内訓練がありますが、人が企業を超えて横に移動するのが困難です。
 以上から学ぶ点は、近隣諸国との関係について領土を失っても地域協力を通じて領土紛争を減らすばかりではなく、より多くを得ることもあるということです。またもう一つは、アングロサクソン的な自由主義経済か、ドイツ的な社会的市場経済かを選択しなくてはならない時がいつか日本にも来るのではないかという点です。英国は結局ドイツ的な社会的市場経済に耐えられなかったのでしょう。私の知人ヴォルフガング・シュトレーク氏が『時間かせぎの資本主義』という本を書いていますが、金融経済化した資本主義に何時か危機が来るのではないかと危惧します。もう一度ものづくりを見直すべきだと思います。

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