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2017年8月29日 (火)

「気候変動の国際交渉と日本」

7月20日卓話要旨
外務省国際協力局 気候変動課 課長補佐 太田代 身生 氏
(廣瀬 元夫会員紹介)

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   気候変動をめぐる科学的知見については、1988年、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が共同で設立した「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)報告書が重要な役割を果たしてきました。世界の平均気温は過去100年で0.74度上昇し、近年になるほど温暖化傾向が加速しています。
また世界平均海面水位は過去100年で17センチ上昇し、こちらも近年になるほど上昇傾向が加速しています。気候変動が地球に及ぼす影響が明らかになる中、大気中の温室効果ガスの濃度安定化のため、1994年、国連気候変動枠組条約が発効しました。温暖化は産業革命以降、先進国の経済活動に因るところが大きいとして、条約では、先進国と途上国の取り扱いを区別していました。先進国の取り組みをさらに具体化したのが京都議定書です。経済活動の制約になると考えたアメリカは締結に至りませんでした。日本は第二約束期間に参加しませんでした。
 この間、中国やインドといった新興経済国の温室効果ガス排出量が増え、先進国だけが削減努力だけでは不十分であることが認識されるようになってきました。そのような中、2016年、数年にわたって交渉されてきたパリ協定が発効しました。パリ協定では、全ての国が自主的に削減目標を掲げている点が大きな特徴となっています。
 気候変動を巡る国際交渉は、様々な分野にわたるため、関係省庁のほか、研究所やNGO、民間企業も参加します。国連気候変動枠組条約締約国会議の他、様々なフォーラムで公式・非公式に交渉が行われることもあり、外務省が日本の交渉の調整役を担っています。
 現在では、中国の温室効果ガス排出量はアメリカを上回っています。アメリカがパリ協定からの脱退を表明したとき、中国はパリ協定を実施していくと決意表明しました。中国をはじめとする新興経済国は、経済成長を実現する一方で、深刻な環境問題にさらされており、経済成長一辺倒では、持続可能な社会経済発展は望めないことを理解しているのです。
 パリ協定では長期目標として、世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保つともに、1.5 ℃に抑える努力を追求することを定めています。そのためには、各国の削減努力や、資金提供や技術移転を通じた国際協力を進める必要があります。さらに、大幅な排出削減のためには、イノベーションが果たす役割が重要になってきます。
 気候変動対策では、「緩和」と「適応」という言葉がよく出てきます。温室効果ガスを削減し、環境に対するインパクトを緩和する、あるいは、実際に発生している気候変動の影響に適応するという具合です。温度上昇を抑制するためには、緩和努力をどんどん進めていきたいところですが、気候変動の影響は均等にもたらされるわけではなく、特定地域において、大きな影響が出る傾向があります。たとえば、島嶼国にとっては、海面上昇による領土の減少や、ハリケーン被害の甚大化などは国の存続に関わる問題になります。緩和と適応の両方を進めていくことが重要になります。
 気候変動対策には、資金動員が必要です。これまで、ODA(政府開発援助)やOOF(公的資金)が中心となってきましたが、これからは、民間資金を動員する仕組みを整備していくことが必要になってきます。保険分野や、再生可能エネルギー、気候変動対策に資する技術を使ったビジネスなどをいかに活用していくか、大きな課題です。
 パリ協定で日本が提出した目標値は、2030年度に2013年度比▲26.0%(2005年度比▲25.4%)の水準(約10億4、200万t-CO2)です。パリ協定では、各国が自主的な削減目標を掲げていますが、国によって基準値や実施期間などが異なるので、どれだけの削減量になるのか、また、本当に野心的な目標なのかといった判断が難しく、今後の実施指針を策定する交渉の最も重要な部分になっています。日本は、オイル・ショックを経て、世界水準でも省エネを達成しています。国内対策を進めながら、省エネを進めようとする途上国への協力が期待されています。
 気候変動交渉には、外交交渉のエッセンスが凝縮しています。また、科学や法律の知識も必要となるため、大変ですが、とてもやりがいのある仕事であると思います。

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