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2017年9月21日 (木)

「待合室から医療を変えようプロジェクト」

8月31日卓話要旨
医療法人社団以仁会理事長・医師  河内 文雄 氏
(市村尚裕会員紹介)
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   現在、1日当たりの医療機関の利用者数は860万人ですが、今後は高齢化に伴い、限りなく1000万人に近づいていくでしょう。1人当たりの疾患数も多くなり、風邪や腹痛とは違う医療が必要となってきますが、医者の数は限られます。ところが、今、医大を設立しても、患者に対応できる医者が育つには10年以上かかります。団塊の世代が後期高齢者となる2025年には間に合わないので、現有勢力で立ち向かわざるを得ません。これが医療の本当の問題点です。
 対応策は、無駄を徹底的に省くこと、休眠資源を再発掘することの二つしかありません。昭和40年代、わが国には一般病院だけで1万の病院が存在していました。今は病院の統廃合が進んでいますが、現時点でも一般病院は7500存在します。あの広大なアメリカでさえ、病院の数は5000です。また、今、日本には看護師、准看護師、保健師、助産師を合わせた看護職員が225万人います。そのうち医療機関で働いているのは160万人にすぎず、残りの65万人の中には現役で働ける方もかなりおられます。
 そこで、われわれが目を付けたのが待合室です。現在、診療所と病院の待合室で使えるスペースは30万カ所以上あり、待合室での待ち時間は平均40分となっています。これを有効利用しない手はないということで生まれたのが、「待合室から医療を変えようプロジェクト(待ちプロ)」です。
 東洋と西洋のように、異質のものが出合う場を、われわれは「渚」と呼びます。私は、社会と医療の渚である待合室に多様性を呼び込み、新しい価値を生むことを、自身のクリニックで実践するべく、大腿骨骨折の86歳の女性に趣味の写真を飾るために待合室の壁を開放したり、縁側の写真を撮ることが趣味の若い女性に発表の場を提供したりしています。
 また、当院の待合室には雑誌の代わりにオリジナルのパンフレットを置いてあります。ノロウイルスなどの接触感染を防ぐために、手に触れたら必ず持って帰るというのが唯一のルールです。また、当院はショッピングセンターの中にあって非常に狭い上、待合室などの有効利用を通して患者さん同志に仲間意識、参加意識を持ってもらえているので、待合室でお互いに順番を譲り合ったり、待っている間に気分が悪くなった方を患者さんたちが待合室の一画にある救急患者用のベッドに運んでくださったりという光景が見られます。
 私は開業するに当たり、全ての学会を脱退して全ての役職を返上し、医師免許証と運転免許証を除く全ての免許を返上しました。そうすると、どうしても学問の進歩には後れていきますが、こうした試みにより、内科でありながらカルテ番号は10万を超えました。
 「待ちプロ」は、東大での社会人を対象とした勉強会から始まったものです。日本では開業医の受診者が430万人、病院の受診者が170万人いて、その70%に薬が処方されています。薬も大事ですが、それよりも大事なのは、どういう病気で、診断の根拠は何か、どういう治療を行い、どういう経過をたどるかという説明です。しかし、3分診療ではそういう情報を伝える時間がありません。ならば、「情報処方箋」というコンセプトで、待合室でイギリスのナショナル・ヘルス・サービスを参考とした信頼が置ける情報デリバリーサービスを行おうということで始めたのです。
 待合室をグレードアップすれば、病院と診療所の医療レベルの差を縮めることができ、患者さんの適正受診にも結び付きます。開業医は皆、勤務医時代の経験から「病院に来なければいけない患者は今の2割程度だろう」と思っています。1人の患者が1回病院を受診したときの医療費は約1万3000円ですが、診療所は8000円です。8割とは言わないまでも、170万人のうちの100万人が病院から診療所にシフトすれば、1日当たり50億円、年間1兆2500億円の医療費の節減になります。
 日本人は医療に多大な関心を持っていますが、一方で、「高血圧の薬を飲み始めると一生飲まないといけないから、飲みたくない」とか「ステロイドは悪魔の薬」などといった迷信が幅を利かせています。日本は識字率が100%で、世界で唯一、小学生がおつりの計算ができる国なので、もっと小さいうちから医療の妥当性について教えればいいのです。例えば、少子化で倒産した予備校の空き教室を利用して、1日で簡単な応急処置や医療の常識、体の仕組みなどを学ぶ「国民総医師化プロジェクト」を進めてはどうでしょうか。

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