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2018年5月22日 (火)

「スキーと健康(平昌オリンピックのエピソードを交えて)」

4月19日卓話要旨
プロスキーヤー 三浦 豪太 氏
(大岩 紘会員紹介)
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   私は、平昌オリンピック開会式5日前の2月4日から平昌に入って取材を続け、2月24日に帰国しました。帰国後、私の解説が話題になっているという話を聞いたのですが、「しまった!」と思った解説が二つありました。一つは、ノルディック複合の渡部暁斗選手とハーフパイプの渡部由梨恵選手の夫妻のことを、「違う種目ながらも夫婦で冬季五輪に出場したのは初めてではないか」と紹介したことです。ところが、私の後輩である上村愛子とアルペンの皆川賢太郎の夫妻の方が先だったので、後で上村に謝りました。
 もう一つは、スロープスタイル競技は右回転と左回転の両方を決めないと評価されない種目なのですが、金メダリストのパフォーマンスのときに、「同じ4回転でも、羽生結弦君も真っ青ですね」と言ってしまったのです。その翌日からツイッターでたくさんの書き込みがあり、大変な目に遭いました。いずれにせよ、選手たちの活躍によって平昌五輪は実り多い大会だったのではないかと思います。
 日本の長寿研究の基礎は、私の祖父・三浦敬三が行っていた体操や食べていた物、生活習慣などが根底にあります。アンチエイジング(高加齢医学)の第一人者である白澤卓二教授によると、三浦家は「長寿エリート」の家系なのだそうです。何かしら長寿の秘密が隠されているのではないかと考え、祖父敬三と父雄一郎をモルモットにしていたのが、私のアンチエイジング研究のきっかけでした。
 二人を身体測定してみると、実年齢よりも若い体力だったのです。100歳を過ぎてもスキーを続けた敬三の場合、足の骨密度が40歳も若い数値でした。下半身に力が加わるおかげで、骨が強くなっていたのです。筋力も同じ傾向でした。ですから、100歳までスキーを続けたことと健康長寿には接点があるのではないかと考えました。骨は変化が小さいと思われがちですが、5年に1回ほど新陳代謝しています。古い骨を壊す破骨細胞と新しい骨を作る骨芽細胞のバランスで成り立っていて、骨の周りの骨膜に刺激が加わると、破骨細胞を一時不活性化、骨芽細胞を活性化させて骨を生成し、カルシウムを体内にためていくのです。
 健康長寿のもう一つの要因は、ビタミンDの活動ではないかと考えています。コレステロールがビタミンDに変わるには、紫外線がとても重要な役割を果たします。つまり、私たちが悪玉だと思っているコレステロールがビタミンの先駆体になっているのです。ビタミンDがなければ骨や筋肉は組成できないのですが、現代人は室内にいる時間が長いので、ビタミンDが不足しがちです。太陽の光を1日30分も浴びれば、1日に必要なビタミンが生成されるはずです。
 人の体を作るには、骨や筋肉を作るビタミンDと、体を組成する神経をつかさどる葉酸が必要ですが、葉酸は紫外線に弱い栄養素です。低緯度に住む黒人の肌が黒いのは葉酸を紫外線から守るためであり、高緯度地方に住む人に白人が多いのは、ビタミンDを多く生成しようとするためです。つまり、地域によって人類の肌の色に違いがあるのは、ビタミンDと葉酸のバランスを保つためなのです。
 ですから、わずかな日照時間でも屋外でウインタースポーツをすることで筋肉や骨を強くしますし、最近ではうつ病の抑制にもつながることが分かっています。特にお勧めなのはスノーシューです。技術がなくても誰でも楽しめるからです。私はアンチエイジングを目的としたスノーシューキャンプを実施しています。
 これからの季節は登山シーズンですが、登山も理想的な有酸素運動です。ジョギングよりも足などへの負担が軽く、特に坂を下る運動はエキセントリック運動といって、糖を積極的に使う速筋線維を優先的に使うので、糖尿病予防の効果が大きいのです。つまり、血糖値をコントロールする上では、上りの運動よりも下りの運動が重要です。
 スキーやスノーボードも下りの運動であり、アウトドアですから、とてもいいスポーツといえます。これらのスポーツは技術的にも奥が深く、いろいろなところを追求できるという利点もあります。
 それから、3年前の論文によると、ゴルフをしている人はしていない人よりも、70歳を過ぎてから5年後の生存率が50%も高かったそうです。しかもハンディキャップが低いほどその傾向が強いことも分かっています。皆様もゴルフを思う存分楽しんでください。

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「更生保護法人両全会の社会復帰支援活動」

月12日卓話要旨
更生保護法人両全会 理事長 小畑 輝海氏
(野村 憲弘会員紹介)
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   刑事司法を取り巻く環境はものすごく変化しています。一昨年には再犯防止推進法が成立しました。犯罪発生件数が激減しているのに、再犯者は減っていないからです。再犯率が減らないのは、一度罪を犯した後、社会に復帰したときに、受け入れる基盤が整備されていないためです。そこで国は、推進法に基づいて再犯防止推進計画を策定しました。私も計画の検討会の委員に任命され、1年間参加しました。
 われわれ両全会は、全国で7カ所しかない女性専用の更生保護施設の一つです。刑務所や少年院から出た人たち(刑余者)を預かる期間は平均4カ月と短いのですが、刑余者が立ち直る上で、その4カ月間に就労と住居の環境を整えることが最も重要です。両全会は参宮橋駅前にあり、就労しやすい立地なので、当会の刑余者は清掃や調理補助、ホールスタッフ、コンビニなどに就労しています。ただ、女性向けの仕事があまりないので、皆さまのご協力を頂けたらありがたいと思います。
 彼女たちの一番の課題は、きちんとした仕事に就く習慣を付けることですが、刑務所等に入所する前に、汗水を垂らしてやるような仕事をあまりしていません。半数は生活保護を受けていて、あとは夜の仕事などに就いていました。逆にいえば、真面目に一生懸命に働いている人が刑務所に行くことはあまりないのです。社会復帰のためには、きちんと就労する習慣を付けることが重要なので、両全会に入った人はほぼ全員が就労しています。
 国は刑余者の就労に非常に前向きになっており、協力雇用主に対して奨励金制度などを設けています。私が法務省にいた頃には考えられなかったことです。中には障害を持った人もいますので、社会福祉士が刑務所職員として勤務したりして、再生に向けた支援をしています。また、更生保護施設に来てから就労を考えていても遅くなるので、刑務所入所時から刑務所と保護観察所とハローワークが連携し、本人の就労を検討する仕組みになっています。最近、矯正就労支援情報センター(通称コレワーク)ができ、在所中から就労希望者の情報提供制度が発足しました。
 一番の心配は、刑余者を雇っても大丈夫なのかということだと思いますが、当会では勤務先で違法行為をしたケースは、私が勤めるようになったこの10年で一度もありません。刑余者の女性で一番多いのは薬物事犯者であり、専門のカウンセラーなどが心理学的療法で再犯防止を図っています。
 両全会では民間協力者40人程度にご協力頂き、カウンセリングやパソコン指導などをしていますが、問題は施設を出てからケアをつなげていくことです。それが不十分だと、再犯につながります。女性の場合に難しいのは、男性に依存的な面があるような場合です。刑務所を出てから2~3年は再犯率が高いので、その間は相談員をつけてケアしていく態勢が必要だと思います。住居と就労とケアの3点セットで、更生保護施設を出た後の中間施設をつくり、そこでトレーニングしてから企業に就労するとより完全なのではないかと思い、現在計画しています。
 日本が成熟した社会になるには、格差を拡大させないことと、刑余者や障害を持った方々が社会に組み込まれていくこと(社会的包摂)が必要です。それが安心・安全な社会につながると思います。一億総活躍社会の中には刑余者も含まれることを国も認める時代になったので、あとは国民がどう受け入れるかが重要だと思います。
 両全会では、職員が本人に毎日声掛けをし、寄り添いながらケアしています。それから、日課として掃除を20分間全員で行っています。ですので、施設内はとてもきれいです。そうして就労の習慣を付けることで、就労先でも褒められて、喜びが得られます。両全会に入った人の再犯率は数パーセントです。
 刑余者の女性たちの多くは、小さい頃の境遇が恵まれていません。親の愛情が十分でなく、情操が育つまでの文化的環境に恵まれなかったため、社会に溶け込めないでいるので、その点を改善できればと思っています。人を社会的包摂するのは大変なことですが、北欧の矯正関係のトップの話を聞くと、最終的には国民意識の問題にたどり着きます。北欧では刑余者を社会全体で受け入れる意識になっていますが、日本ではなかなかうまくいきません。政府は再犯防止推進法を制定し、地方自治体と関係団体の連携を一番大きな目標に掲げているので、これからのフォロー体制はだいぶ進んでくると思います。

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2018年5月 2日 (水)

「方言ヒーロー/ヒロインは、幕末ものに咲く!」

3月29日卓話要旨
日本大学文理学部 教授 田中 ゆかり 氏
(鈴木 一行会員紹介)
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    テレビドラマなどでは、実際に使われている方言 (リアル方言)をリソースとしながら、視聴者に分かるように、でもローカル性は失わないように編集・加工された仮想方言(ヴァーチャル方言)が使われています。つまり、テレビドラマの方言は、日本語社会における方言の価値と位置付けの変遷をたどる一つの手がかりなのです。
 記憶に残る方言コンテンツといえば、NHKの朝ドラと大河ドラマがあると思います。朝ドラは高度成長期の1961年に始まり、少しずつ形態を変えながらも続いています。基本的に現代物で、女性の一代記が中心です。春は東京局、秋は大阪局で制作しているため、全国の方言が登場します。一方、大河ドラマは1963年に放送開始されました。こちらは、時代物で、男性が主人公のケースが多く、特に戦国時代や幕末のものが多いです。
 現代劇と時代劇の共通点は、仮想空間で演じられるものである点です。その仮想空間を作り上げる大きな装置には、衣装や化粧だけでなく、せりふも含まれます。つまり、「らしさ」を演出する手段の一つとして仮想言語が用いられているのです。
 現代劇では現代語をベースとして仮想言語が用いられているため、地域的な差異としてヴァーチャル方言が盛り込まれやすく、「方言ヒロイン」が登場しやすくなっています。一方、時代劇では時代的な差異を示すことが重要なので、仮想の時代語がベースです。しかし、その上に方言を入れると視聴者の理解が阻害されてしまうので、「方言ヒーロー」は登場しにくいという違いがあります。
 「方言キャラ」としてまず思い浮かぶのは、坂本龍馬ではないでしょうか。司馬遼太郎原作の「竜馬がゆく」(1968年)は、主人公が土佐弁をしゃべる初の方言大河ドラマとなりました。このドラマが高度成長期に作られたことは、上京青年を描くことと関係があります。山田太一作の「獅子の時代」(1980年)では、大河初の方言指導がオープニングクレジットロールに初めて登場した作品です。「翔ぶが如く」(1990年)では、ナレーションにも薩摩弁が使われ、台詞の薩摩弁には共通語の字幕が使われました。「八重の桜」(2013年)では、会津弁を話す登場人物のために年齢・性別等を考慮した複数の方言指導者が入りました。これらはすべて幕末物です。
 現在ではあって当たり前の「方言指導」ですが、かつて学術的支えをもたない「なんちゃって方言」があまりに多く登場したことによって、多くの批判が寄せられました。そのような批判に対する「回答」として、NHKは1970年代中頃に「方言指導」を導入します。1980年代以降になると、「方言指導」は、オープニングクレジットロールにも明示されるようになります。
 今年の「西郷どん」には、もちろん「薩摩ことば指導」が入っていますが、俚言(共通語と形式が異なる方言語彙)にも、字幕が入っていません。方言のせりふが分からないという声がNHKにかなり寄せられているそうですが、これは意図的になされていることが同番組のサイトなどを見るとよくわかります。このような挑戦的な方言ドラマのありかたが、許容されるようになった背景としては、現代が方言に価値を見出す時代であることと、時代劇が現代語ベースとなり、方言が使いやすくなったということを指摘できます。現代語時代劇の走りは、「草燃える」(1979年)ですが、当時はずいぶんと時代劇らしくないという批判もあったようです。しかし、いつの間にか現代語時代劇が日常となりました。織田信長や豊臣秀吉、徳川家康にも名古屋言葉を使ってほしいという要望が、経済効果を期待するご当地の首長からなされたということを報じる新聞記事からは、現代が「方言プレスティージの時代」であることが読み取れます。
 まとめると、時代劇の「地」の言葉が現代語化したことで、方言のキャラが増えてきました。次に、それらは地域意識が投影されやすい幕末物に極めて多く登場します。ただし、地方出身だけでは方言ヒーローたりえず、「男性・低位・野」といった条件が求められているようです。「西郷どん」のように、「方言指導」は付いているものの、共通語字幕なしで俚言を用いるドラマは、「方言プレスティージの時代」を背景とした方言時代劇の最新形といえるでしょう。
 私は方言のフィールドワークもしているので、東京中心部の言葉を研究するお手伝いをしてくださる方がいたら、ぜひ、よろしくお願いします。

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