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2018年5月 2日 (水)

「方言ヒーロー/ヒロインは、幕末ものに咲く!」

3月29日卓話要旨
日本大学文理学部 教授 田中 ゆかり 氏
(鈴木 一行会員紹介)
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    テレビドラマなどでは、実際に使われている方言 (リアル方言)をリソースとしながら、視聴者に分かるように、でもローカル性は失わないように編集・加工された仮想方言(ヴァーチャル方言)が使われています。つまり、テレビドラマの方言は、日本語社会における方言の価値と位置付けの変遷をたどる一つの手がかりなのです。
 記憶に残る方言コンテンツといえば、NHKの朝ドラと大河ドラマがあると思います。朝ドラは高度成長期の1961年に始まり、少しずつ形態を変えながらも続いています。基本的に現代物で、女性の一代記が中心です。春は東京局、秋は大阪局で制作しているため、全国の方言が登場します。一方、大河ドラマは1963年に放送開始されました。こちらは、時代物で、男性が主人公のケースが多く、特に戦国時代や幕末のものが多いです。
 現代劇と時代劇の共通点は、仮想空間で演じられるものである点です。その仮想空間を作り上げる大きな装置には、衣装や化粧だけでなく、せりふも含まれます。つまり、「らしさ」を演出する手段の一つとして仮想言語が用いられているのです。
 現代劇では現代語をベースとして仮想言語が用いられているため、地域的な差異としてヴァーチャル方言が盛り込まれやすく、「方言ヒロイン」が登場しやすくなっています。一方、時代劇では時代的な差異を示すことが重要なので、仮想の時代語がベースです。しかし、その上に方言を入れると視聴者の理解が阻害されてしまうので、「方言ヒーロー」は登場しにくいという違いがあります。
 「方言キャラ」としてまず思い浮かぶのは、坂本龍馬ではないでしょうか。司馬遼太郎原作の「竜馬がゆく」(1968年)は、主人公が土佐弁をしゃべる初の方言大河ドラマとなりました。このドラマが高度成長期に作られたことは、上京青年を描くことと関係があります。山田太一作の「獅子の時代」(1980年)では、大河初の方言指導がオープニングクレジットロールに初めて登場した作品です。「翔ぶが如く」(1990年)では、ナレーションにも薩摩弁が使われ、台詞の薩摩弁には共通語の字幕が使われました。「八重の桜」(2013年)では、会津弁を話す登場人物のために年齢・性別等を考慮した複数の方言指導者が入りました。これらはすべて幕末物です。
 現在ではあって当たり前の「方言指導」ですが、かつて学術的支えをもたない「なんちゃって方言」があまりに多く登場したことによって、多くの批判が寄せられました。そのような批判に対する「回答」として、NHKは1970年代中頃に「方言指導」を導入します。1980年代以降になると、「方言指導」は、オープニングクレジットロールにも明示されるようになります。
 今年の「西郷どん」には、もちろん「薩摩ことば指導」が入っていますが、俚言(共通語と形式が異なる方言語彙)にも、字幕が入っていません。方言のせりふが分からないという声がNHKにかなり寄せられているそうですが、これは意図的になされていることが同番組のサイトなどを見るとよくわかります。このような挑戦的な方言ドラマのありかたが、許容されるようになった背景としては、現代が方言に価値を見出す時代であることと、時代劇が現代語ベースとなり、方言が使いやすくなったということを指摘できます。現代語時代劇の走りは、「草燃える」(1979年)ですが、当時はずいぶんと時代劇らしくないという批判もあったようです。しかし、いつの間にか現代語時代劇が日常となりました。織田信長や豊臣秀吉、徳川家康にも名古屋言葉を使ってほしいという要望が、経済効果を期待するご当地の首長からなされたということを報じる新聞記事からは、現代が「方言プレスティージの時代」であることが読み取れます。
 まとめると、時代劇の「地」の言葉が現代語化したことで、方言のキャラが増えてきました。次に、それらは地域意識が投影されやすい幕末物に極めて多く登場します。ただし、地方出身だけでは方言ヒーローたりえず、「男性・低位・野」といった条件が求められているようです。「西郷どん」のように、「方言指導」は付いているものの、共通語字幕なしで俚言を用いるドラマは、「方言プレスティージの時代」を背景とした方言時代劇の最新形といえるでしょう。
 私は方言のフィールドワークもしているので、東京中心部の言葉を研究するお手伝いをしてくださる方がいたら、ぜひ、よろしくお願いします。

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