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2018年11月13日 (火)

「高齢者支援制度、ホームロイヤーを中心に」

10月25日卓話要旨
弁護士 奈良 正哉 氏
(新 健一会員紹介)
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 高齢者の財産管理を支援する制度には、ホームロイヤー、任意後見、民事信託、遺言、法定後見などがあります。
 50代、60代になると、親の法定後見人になっている方が結構います。これは家庭裁判所が管轄する制度です。認知症になって判断能力がなくなると、預金を下ろしたり、契約書にサインしたりするような法律行為ができなくなり、大概は親族が法定後見の申し立てを裁判所にします。後見人を選ぶのは家裁であり、息子が後見人になりたいと申し立てをしても、財産が多額な場合や相続争いが起こりそうな場合は、そのうちの1人を後見人にすることはありません。そうすると、弁護士や司法書士などが家裁によって選任されることになります。その場合、家族と面識のない人が、財産管理について100%の権限を持つことになります。つまり、後見人制度は財産を持つ本人のための制度であり、家族のための制度ではないのです。本人の財産をなるべく減らさないスタンスで管理するので、融通の利かない制度になっています。
 一方で任意後見制度は、本人が元気なうちに締結する契約であり、本人がなってもらいたい人を任意後見人にすることができます。だから、法定後見と違って、見ず知らずの弁護士が突然やって来るリスクはありません。自由に決めていいので融通が利きます。
 その前段階としてホームロイヤーがあります。任意後見の導入版で、個人の顧問弁護士の位置付けです。個人のお客さまに寄り添って、財産管理の面倒を見てくれる存在です。一番安くて月5000円で、見守りや法律相談のサービスが付きます。リクエストに応じて弁護士会がホームロイヤーを選び、契約前にお客さまのニーズや相性を審査することになっています。そして、ホームロイヤーがきちんとやっているかどうかを弁護士会で判断します。万一気に入らない場合は、交代もできますし、任意契約なのでやめることもできます。融通性があり、弁護士会の牽制も入る制度なので、導入として入れる意義はあると思います。
 遺言はハードルが高いイメージがあるため、大概の人は書きませんが、作成に当たっては公正証書遺言をお勧めします。裁判官や検察官のOBである法律のプロ(公証人)が作成してくれるからです。公証人は、遺言する人に内容を確認している様子をビデオに撮ったりして、遺言能力がきちんとあることを裏付ける証拠を持って作成しています。
 民事信託は家族信託と同じであり、財産管理の方法としては非常に優れた面があります。元気なうちから、自分が死んだ後、あるいは自分が死んで相続した人が死んだ後、二次的な相続が終わるまで、一つの契約の中で財産管理ができるものです。
後見人の選任は、法定後見では家裁が行うので、会ったこともない人が就任するリスクがあり、途中で撤回はできません。法定後見は、後見人が被後見人の財産を守るための制度ですから、財産はそれ以外の人の利益のために使うことはありませんし、冒険的な取引はしません。だから、被後見人が株式や投資信託をやっていても、そのまま続行することは難しい面があります。
一方で、信託は名義を変更するので、例えば賃貸不動産を持っていて息子に信託すると、登記上あるいは法律上、所有名義は息子に移ります。不動産屋が高齢者をだまそうとしても、所有権が息子に移っているので、財産を管理する安全性は格段に高くなるといえます。
 法定後見以外は、自ら契約することですから、自分が元気なうちに手当てをしなければなりません。成年後見の利用率は男性よりも女性の方が高くなっており、利用開始年齢も、女性の場合80歳以上が64%と高くなっています。これは女性の方が長生きで認知症になりにくいからと思われます。また、後見人になった人は親族が28%で、専門職が72%です。つまり7割は、親族にとって見ず知らずの人がなっています。
 認知症の人が現在400万人いるのに対し、平成28年度末の成年後見利用者は20万4000人なので、約5%に当たります。認知症の人は数年のうちに700万人ぐらいになるだろうといわれているので、不足することは間違いありません。特に、女性の専門職を望む人が多いので、今後不足するのではないかと思います。
皆さんや皆さんの親族が元気なうちに、ホームロイヤーのような安い手立てで女性の弁護士を確保しておくことは考慮に値するのではないかと思います。

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「医薬品・薬物の乱用を考える」

10月18日卓話要旨
一般社団法人日本くすり教育研究所 代表理事 加藤 哲太 氏
(松本 正会員紹介)
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   薬物乱用の事犯は覚せい剤が一番多いのですが、最近は危険ドラッグがかなり減って、向精神薬などの医薬品が増えています。そのため、一般の人が手を染めることが多くなり、薬物乱用の恐ろしさを喚起する必要性が高まっています。
 向精神薬とは広義には脳に作用する薬で、睡眠薬や睡眠導入剤、精神安定剤が含まれます。基本的に処方箋で薬剤師が販売することになっていますが、国外からも多く入ってきます。中枢神経に作用するのですが、社会不安を背景に向精神薬に頼る者がどんどん増えていて、インターネットでも買えます。処方に従って正しく使わないと乱用になりやすい薬物で、不眠や不安、焦燥感などの副作用が表れます。ただ、事犯としてはなかなか表に出てくることがないので、こうした薬物の乱用がじわじわと広がっています。
 鎮痛薬は、乱用すると薬物乱用性頭痛になります。これが今、結構問題になっていて、特に女性に多いです。痛みの信号は脳から出ていて、閾値よりも強い信号が出たときに痛みを感じるのですが、鎮痛薬を使い続けると閾値が下がり、今まで感じなかった痛みも感じるようになります。何となく不安だから飲んだり、飲んでいるうちにやめられなくなったりすると、専門医の指導を受けない限りなかなか抜けられません。そういうふうに、身近な医薬品でも乱用になる場合があるのです。私は薬剤師ですので、薬の説明書に書いてあることを守って使用するように注意喚起しています。
 モルヒネは、ガンの痛み止めとして使われている非常にいい医薬品なのですが、医療用麻薬に分類されていて、モルヒネ依存症というものがあります。日本では、他国に比べてモルヒネの使用量が少ないのですが、面白いことに普通の人がモルヒネを使うと依存症が表れ、痛みのある人が使っても依存症になりにくいのです。人間の脳にはこういうすごい能力があるのです。ですから、特にがんなどの痛みに対しては医師の指導のもとモルヒネを使用することを勧めています。
 皆さん「スマドラ」は知っていますか。スマートドラッグといって、「頭の良くなる薬」としてネットなどで売られています。脳に作用するこうした薬物を勝手に飲むのは危険なので大きな問題になっていて、厚労省はスマートドラッグ27品目に輸入規制をかけるなどしています。
 危険ドラッグの減少に伴い、青少年の間では大麻がはやっています。ただ、問題なのは大麻の影響が見えにくく、使用に対する抵抗感が小さいことです。私もいろいろな教材を作っているのですが、大麻には依存性の他に幻覚作用があるので、その危険性をしっかり教えていかなければなりません。しかし、カナダでは10月17日、大麻使用が合法化され、米カリフォルニア州でも既に合法化されているように、海外では合法化の傾向があります。これは日本にとって困ったことです。ただ、カリフォルニアでは21歳以上しか認められていないし、カナダでは若者が入手しにくくすることが合法化の目的なので、そのことを伝えていきたいと思っています。
 脳の中には1000億個のニューロン(神経細胞)があり、記憶や感情をつかさどっています。人の感情や気分は脳内の神経伝達物質のバランスによって制御されており、そこに薬物が入ることの怖さを知ってほしいと思います。今年8月、第5次薬物乱用防止5カ年戦略が策定され、学校での薬物乱用防止教育・啓発の充実がうたわれているのですが、私は「“ダメ・ゼッタイ”だけではない薬物乱用防止教育」という副題を掲げて指導しています。薬物の危険性・違法性だけでなく、的確な判断力を付け、自己肯定感を高めることの3本柱で指導しているのです。つまり、薬物の怖さを教える以前に、イチゴを見てすぐに脳が「イチゴ」と答える働きであったり、サッカーの試合中にどれだけ脳が動いているのかを説明することで、脳の素晴らしさ、人間の素晴らしさを教えています。単純に「ダメ・ゼッタイ」だけではなく、一人一人の素晴らしさを教えることで薬物乱用を防止できると考えています。
 病気やけがのときに使用する薬と違い、薬物は今よりもいいことがあるという誘惑に駆られて使用するものです。ですから、「元気なときは薬を使うな」という指導をし、薬の正しい使い方も啓発しています。これからは医薬品についても乱用の問題がいろいろと出てくると思います。乱用防止を指導する際には皆さんそれぞれの経験を生かして指導してほしいと思います。

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「米山月間に因んで」

10月4日卓話要旨

米山奨学生 申(シン) 侑(ユ)定(ジョン) さん
(河村 博会員紹介)
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   私は韓国出身で、東京医科歯科大学の大学院生です。実家は京畿道広州(クァンジュ)という首都圏にあります。日本語は、小学5年生から公文で勉強しました。日本の公文と違って、先生が週1回、家を訪れて授業をします。数学をやっていたので、日本語の科目を通じて学んだのが日本語学習のきっかけでした。今は第3外国語として中国語がブームですが、当時は日本語がブームでした。私は新しいことを学ぶのが大好きで、遊びながら日本語を学びました。テレビドラマを見たり、インターネットやCDで音楽を聞いたりしながら、歌詞にある漢字やひらがなを書きながら日本語を学んでいきました。字幕なしの番組を見ることを目標に勉強したら、公文が要らなくなり、中学3年生からは一人で勉強しました。湊かなえさんの小説が大好きで、小説を買って読んだりもしました。
 私が日本語を学び続けたもう一つの動機は、ある日本人のおばさんです。中学2年生のとき、ソウルの明洞にあるカフェに友達と行きました。当時のソウルは「冬のソナタ」の影響で日本人観光客が多く、カフェの隣の席には日本人のおばさんたちがいました。私は「生の日本語が聞けるチャンスだ」と思い、勇気を出して初めて日本語で声を掛けました。そして、おばさんに住所や電話番号を教えてもらい、連絡を取り合うことで自然と日本語が上達しました。今はおばさんの家と10分ぐらいの場所に住んでいます。日本のお母さんのような存在で、家族と離れていても心強いです。
 私は韓国で歯科衛生士学科を専攻しました。3年生から病院実習があったので、病院のことを学ぶために、近所にある小児歯科でアルバイトを始めました。病院実習と授業が忙しかったので大学の近くに住みながら、金曜の授業が終わったらすぐ実家に戻り、土曜日にバイトして、日曜の夜に大学に戻る生活をしました。
予防診療をする中で、2歳未満の子どもの虫歯がとても多いと実感し、乳幼児期の虫歯に興味を持ちました。調べていくと、「哺乳瓶う蝕(虫歯)」という言葉は、1960年代に日本で初めて使われたことを知りました。それから、5歳児の虫歯は韓国では平均3本ですが、日本は1.5本だったので、なぜこんなに予防できるのだろうと関心がありました。そして、日本の大学院を探したら、東京医科歯科大学の大学院課程に口腔保健があることを知り、留学を決めました。入学までの書類の準備や担当の先生との連絡は全て自分で行い、2年前に無事合格しました。
 合格後、日本でも歯科衛生士として研究を続けることを視野に入れていたので、日本の歯科衛生士がどんな勉強をしているのかが気になり、韓国の歯科衛生士の免許を取ってすぐ、大学院1年生のとき、厚生労働省の国家試験受験の認定を取り、今年3月に国家試験を合格して、両国の免許を取りました。
 現在は乳幼児期のう蝕に着目して研究しています。その中で、乳幼児期に飲む粉ミルクや飲み物に、ヒトの乳歯と似たブタの歯を入れ、脱灰を測定する実験をしました。すると、粉ミルクでもすごく脱灰されることが分かり、驚きました。夜間授乳などをしていると、歯磨きもできないし、寝ているときに唾液が少ないので、脱灰しやすい環境になります。歯科衛生士としていまだに行っていない研究なので、知られていることが少なく、苦労しながらも新しいものを見つけるたびにわくわくしながら実験を進めています。この11月、北海道で開かれる国際歯科研究学会でポスター発表を行う予定です。
 先週、博士課程の進学の面接を受けました。現在行っている脂質の脱灰抑制効果の研究を発展させたくて進学を決めました。今後実験を通じて、乳幼児期におけるう蝕と、口腔環境や食生活習慣、保護者の意識や行動との関連を調べ、う蝕の発生原因を検討するとともに、年齢によるう蝕の予防方法を提供する基礎資料を得るための調査もしたいと思っています。成人であれば自分の意識で歯磨きをするなどケアができますが、小児は自分でケアを行うのが難しいです。家庭内の習慣が大切であり、保護者の意識や行動が大きく関わっている分野なので、私は小児歯科に興味を持ちました。
最後に、私は皆様のおかげで修士課程の研究を進められていると思っています。これからの私の人生と、そこで得られた実践の活動を通して、恩返しができればと願っています。本日はありがとうございました。

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