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2021年7月 6日 (火)

「建築家を上手に活用する術」

4月22日卓話要旨
(株)インテグレーティッド デザイン アソシエイツ 

代表 矢田 康順 氏   (山路 熟会員紹介)
  本日は、私が経験した事例を通してお話しさせて頂く事で建築家や日本の建築への理解を深めて頂いて、皆様と一緒により良い街づくりや国づくりに役立てばと思っております。建築家の仕事は、施主からの依頼に厳しい枠組みや条件があればあるほど、それを乗り越えようと情熱を燃やし、何が一番施主にとって良いのかを解いていくことだと考えています。
 まずは御殿山の原美術館です。「戸建住宅の持つ良さを持った集合住宅が出来たら褒めてやる」と言われて挑戦しました。各住戸のベッドルームの上に他人のリビングが来ないよう階層を組み合わせて隣人からの音の問題を排除しつつ、各住戸が庭を持てる案を提示して喜ばれました。普通なら5棟の建売だったものを上に複雑に積層させることで、都市住宅への1つの回答としました。
 二番目は軽井沢に建つ漆芸家のお宅。都心に住みながらアトリエとして、また冬場は住み込みで利用し、いずれは終の棲家にしたいとのこと。作家としての創作空間と同時に家族や周辺の人たちとの交流を自然環境の中でどうやって融合できるか。私の回答は二つの少しズレた正方形プランの重なる部分に、個人の空間とは別に家族の共用部分を設けました。また、全ての扉を完全開放可能とし、中央の家族領域が個人・自然のどちらの領域にも属せるように計画しました。
 三番目はイギリスのロイズ保険会社です。150年はもつように、又、フレキシブル、且つ、維持管理を簡単にという要求に、当時ボスだったリチャード・ロジャース卿と取り組みました。内部空間は将来もフレキシブルに変化可能な単純な長方形。一番の特徴は、トイレ・非常用階段・エレベーターが各階の全て外側に塔状にあること。これにより20~30年で劣化し、交換必要な設備は執務空間に影響なく取り替えられます。40年以上前の建物ですが、今なお、先端技術の空調設備やユニークな新工法による吹き抜け空間が健在です。
 もう一つユニークなのがディズニー本社です。何もないフロリダ・オーランドの湿原地帯に、新しい文化と歴史が欲しい、ディズニーのキャラクターを使うこと、という二つの課題でした。当時ボスだった磯崎新の回答はオーランドは太陽の恵みだけは世界一と、世界最大の円錐型日時計を持ち込んだこと、その時刻は米国NASAで解析された精密なものです。そして素晴らしいことに、ディズニーキャラクターで一番有名なミッキーマウスの耳型を、建物の中心であるエントランスの庇にオマージュ(敬意)として持ち込みました。
 次は湯布院の駅舎です。通過点としての駅ではなく情報発信の地、一方、町は観光の俗化を排して住民参加型の文化施設をとの要求でした。そこで、駅舎を美術館にすることを提案。駅舎から言えば待合、町から考えれば美術館という文化施設。それらを上手く混在させることで、町民も喜び、旅行者も30分に1本の電車の“待ち時間”に地域文化に触れあえると、村おこしとしても全国的にも有名になりました。
 次に熊野本宮大社の瑞鳳殿です。台風被害で二度も川の氾濫による水害を受けていましたが、防壁は作りたくないとのこと。ならば、どのように水を被らずに逃がすかと考え、絶対に水に浸かってはならない物から浸かっても被害が少ない物まで、施設を高低レベル的に3つに分けて計画。これにより、一部、空中に浮いた施設の下は消防水利(消防団の為の池)の水遊びができる浅い水盤としました。結果、参拝者の憩いの場となっています。
続いて南方熊楠の資料博物館です。施主の要求は地場産の木材を使い、且つ、隣接する熊楠の住居とどう関わり開かれたものにするかというもの。木造建築に必要な耐力壁は従来の工法では壁を完璧な塊にするため閉鎖的になります。そこで、日本の伝統工法である“貫”を新しい形の”貫壁“として採用。数々の試験を経て耐力壁として認められ、失われつつある伝統を新しい表現として伝承させました。
技術を追求した結果、施主が求めるものが回答として出てくるのが一番の楽しみです。それをデザイナーとして美術的・芸術的に収めていきます。
その他の近作においてもアップル福岡では米国アップル社らしさの中に日本の美意識や伝統を組み込んだり、進行中のアイルランド大使館(東京)では日本とアイルランド国の架け橋になるような要素を組み入れた建築を模索中です。施主の厳しい依頼にどのように応えていくかが建築家の喜びかと思います。

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