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2022年12月13日 (火)

「歴史人口学からみる新型コロナ感染症」

11月11日卓話要旨
上智大学名誉教授  鬼頭 宏 氏 
(荻原弘幸会員紹介)

20221111

 歴史人口学を日本に導入した速水融先生が指導教授だったご縁でこの分野に携わることになりました。本来は江戸時代の研究が中心ですが、今日は歴史人口学の面から新型コロナウイルス感染症の話を致します。
人口の面でコロナが与える影響を挙げると、1つは出生数の大幅な減少です。今年の出生数の予測は昨年より4万人減り、77万人程になるそうです。2つ目は死亡についてです。昨年コロナで16,771人が亡くなりました。自殺者約2万人と糖尿病約1万4千人の間の位置付けです。高齢者の誤嚥性肺炎4万9千人よりは少ないものの、死亡者は増えています。3つ目は人口移動について。首都圏の人口が調査開始以来、初めて減少しました。私は静岡に住んでいましたが、とにかく若い人が東京へ出てしまう。少しでも転出を防ぐ為に四苦八苦していましたが、一昨年以降首都圏から人が入って来るようになり、今後の影響も非常に興味深く見ています。
コロナの特徴について、過去の死亡態様との比較からお話します。1つ目は季節性の問題です。新型コロナウイルスは気温が5度~15度ぐらいの時期に活性化すると言われていますが、各波の発生動向を見るとピークとなった月はそれぞれ異なり、実際よくわかりません。特に第7波は8月半ばにピークが来ました。
江戸時代から昭和戦前期までは圧倒的に夏に亡くなる人が多く、主な死因は赤痢、腸チフス、コレラ、下痢・腸炎などの消化器系感染症でした。冬にも山があり、流行性感冒、ジフテリア、肺炎、気管支炎など、呼吸器系疾患が中心で、明確に病気と季節の関係が見られました。1883年~2018年の死亡率の、季節毎の変化を見ると、スペインインフルエンザが流行した時期を別にして、夏と冬にピークがある二山型のパターンが1940年頃まで続きます。戦後~1980年代にかけて死亡率が下がると同時に二山型の季節性は見られなくなりましたが、近年は高齢化によって死亡率全体は増えています。
夏の死亡率の高さは、上下水道が整い、医薬の進歩によって感染症が抑え込まれて、戦後は癌、心疾患、脳血管疾患が増えてきました。現在は高齢化の影響で肺炎が再び増えています。経済、生活、技術の変化を背景に死因が変化し、それが死亡の季節性を大きく変えてきたのだと思います。
2つ目は都市と感染症の関係です。ヨーロッパで都市=墓場説、速水融先生が都市=蟻地獄説と唱える現象があります。近代以前の都市は衛生環境も悪く、人口の密集、栄養不足等が死亡率を高めているという説です。伊藤繁先生の調べによると、日本でも19世紀は死亡率が出生率よりも高い都市が非常に多かったのですが、日露戦争頃を境に死亡超過都市は減少し、都市はむしろ安全な地域になった事が分かります。
では新型コロナではどうでしょうか。都道府県別の人口密度と10万人当たりの患者数を対数グラフで示した資料によると、2020年2月時点では関連性は全く見られなかったのが、3月以降徐々に相関関係が強くなりました。統計上のピークは同年7月で、感染者数の7割は人口密度で説明出来る程となり、特に大都市圏で高い傾向でした。当初からの「三密を避けましょう」というのは正しかったのです。現在は、人口密度と陽性者の関連は統計的に有意ですが地域差が目立たなくなってきており、都市=蟻地獄説的な面を持っていても緩やかになっているようです。
ちなみに、スペインインフルエンザの場合はというと、速水先生の研究によれば、死亡率と府県別の人口密度との間には相関関係が全くありませんでした。インフルエンザは季節性が非常に強い病気ですが、人口密度との関係は無いと考えられます。コロナも今年の春から、相関係数が下がって人口密度との関係がなくなってきていますので、全国津々浦々に病気が波及して根付いてしまうと、人口密度とは関係なしに病気が流行る可能性があることを、今後は考える必要があるのではと思っています。指標が違うので簡単には言えませんが仮説として紹介致しました。
時代によって技術も生活様式も違いますが、次々に新しい病気を人間が呼び込んできます。ワクチンや治療薬だけでなく、病気の特徴を早い時期に見極めて生活様式を変える事で防げる可能性もあるかもしれませ。新型コロナが収束する事を願いながら、この病気の生態を季節性という面と都市の人口密度という関連でお話し致しました。

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